音楽が聴こえる
「俺達の曲を聞きながら、なんて本読んでるんだろ。あの人」

いつも厚い本なんて読みやがってと思っていたが、謙二の手元を覗くと、なんと『妖怪辞典』だった。


ホント、なんつー本読んでんだよ。

「……俺の歌って妖怪以下かよ。あいつ俺らが演奏してる時、1度も本から目なんか上げたこと無いぜ」

謙二は笑ったまま、その本を俺に差し出した。

本は表紙が半分程、破けていた。俺のせいで。

「でもあの人、耳は聴いてたよ。ジュンの咽が変だって気付いた。俺らは、お前が苛つき気味だとしか思って無かったよ」


……地味先って。
香田って、何なんだよ。

俺を睨み付けた、眼鏡の奥の真っ直ぐな瞳を思い出す。

罵りながら向けられた視線は、いつもの無表情な地味先じゃねぇ、感情が表に溢れてた。


「多分、悟さんが香田先生に頼めば良いって言ったのも、何か意味があるんだよ」
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