音楽が聴こえる
今回だって、自分が一押しの『SPLASH』を紹介した。

あたしをも巻き込んで。


「……帰る」

椅子の下に置いていたトートバッグを持ち上げて、立ち上がった。

「あ?! こいつどーすんだよっ」

悟がティラミスを指差した。

「……あんたが食べれば良いじゃん」

「待てよ」

その声に背を向けて、そのまま 玄関に向かうあたしの腕を悟は掴んだ 。

「待てって」

「待たない。帰る」

その言葉に反応するように、悟の手に力がこもった。

「そんなに頑なになんなよ」

悟は後ろか腕を巻き付けて来た。

ぴったり密着された背中からは、悟の体温が伝わってくる。

程なくして色気の無い、一本に束ねた髪の裏側に悟の熱い唇を感じた。

彼がゆっくりと自分の唇を擦り付けるものだから、休みの日で少し伸びた無精髭まで、心地の良い刺激になってしまう。

……狡い。

何度も合わせた肌は、どこが弱いのかを熟知していて、簡単に狂わせる。

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