音楽が聴こえる
あたしは、自分の唇から漏れそうになる吐息を噛み殺した。

悟は右手で、そんなあたしの口元を撫でた。

長くてゴツゴツした指先が、声を出せと誘(いざな)うように、官能的にゆるゆると動く。

「っ……あ」

あたしが思わず漏らしてしまった吐息を聞いただろう、悟の口からもフゥと息が漏れた。


「……茉奈、こっち向けよ」

振り返ると真面目な顔をした悟があたしを見下ろしていて。

掛けっぱなしにしていた眼鏡を床にポイと投げ、あたしの目元をペロリと舐め上げた。

「泣かせてぇ訳じゃねえんだよ」

「……泣いてない」

「嘘つき」

悟の唇が嘘つきの唇を食む。

「……帰さねーよ?」

悟の瞳が妖しく揺れるのを見ると、胸が苦しくなって目を伏せた。


……例え始まりが同情だったとしても。

その唇から愛の言葉が紡がれなくても。

あたしを欲しい、その気持ちはまだ無くならないのかな。

目を伏せて黙ったことを同意と見なした悟は、あたしの体をギュッと自分の胸元へ引き寄せた。
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