音楽が聴こえる
「何でも地元に恩返しとか言ってさ、前座に地元のアマバンドを何組か使うんだとよー。奴もようやくオトナになったんかな」

クスクスと煙草を銜えながら笑う悟の、指先がステージをスッと指す。

「ほら、あいつら」

ドラムのリズムに被せるようにギターがギュンギュン走り出した。ベースの低音が音を刻む。

そして、真ん中に立つ茶色の髪の男がギターを弾きながら歌い始めた。

その声は、少しハスキーで伸びがある。

楽しげに歌う姿に、制服姿が重なった。

「……あ。これ……斉賀純也(さいがじゅんや)」

いつも授業中、寝てる奴だ。

あたしは、こいつの頭の天辺しか見たことがない。

そのくせ成績は良くて、教師からすると煙たい存在。

だって、そうでしょ。聞いてないのに分かるって、睡眠学習法かよって、なるでしょうが。



悟は楽しげな目線を前に向けたまま、180cmを超える体を折り曲げて、あたしの耳元に唇を近付ける。彼らの音に負けない声で。

「良い声してんだろっ」
< 6 / 195 >

この作品をシェア

pagetop