音楽が聴こえる
「はぁ……。私に出勤して欲しいと?」

高城は頷きながら、ノンフレームの眼鏡を指でいじる。

「ついでに言っちゃうと、アドバイス貰えると助かるんですけど」

「アドバイスって。……勉強じゃないんだから教えられてどうこうするものじゃ無いでしょ」

教務室の鍵をポケットから取り出し、カチャリと開ける。

静かな廊下に音が響いた。

「……俺達、何が足りないんですかね」

高城はベースのケースを肩に担いだまま、あたしの隣りの机に腰を落とした。

「あれ? そんな風に思ってたの?」

「……思ってますよ。流石に、自信満々にはなれませんよ。大人相手ですから」

「謙虚さも大事。でも、若さはメリットでもあると思うけど」

「若さじゃテクニックは補えないでしょ、先生」

渋い顔をして心の内を吐露する高城といい、斉賀といい、確かについ手を貸してやりたくなる。

「……仕方無いな、君達は」

深入りなんかする気が無くても、結局は情が移ってる。
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