音楽が聴こえる
「もうっ。最後の5分返せ」

エンドロールを見ながら文句を垂れるあたしに彼は不適な笑みを浮かべ、吸い差しの煙草を灰皿へと押し付けた。

「巻き戻して見てろよ。俺、飯食うし」

「……こんな遅いのに?」


映画一本分、遅いお帰りだ。

「おー。今日は店じゃ無かったしな」

「……ふうん」


こういう時、困るんだ。

突っ込んで聞いた方が良いの? っていうより、あたしは聞いて良いの?

悟が日中をどう過ごしてるのか知らないし、たまに家を空けたりする理由も知らない。

ライヴハウスでの悟すら、昔の姿しか殆ど知らないのだ。

やたらと女達にモテてた姿を思い出す。


今のあたしが知ってるのは、ここでの悟だけ。


くだらないことなら、山程言えるのに。

「ハンバーグ、レンジの中」

結局こんなことしか言えないあたしは、中途半端な臆病者だ。

そんな自分に目を伏せて、あたしはDVDのリモコンを弄くる。

そして興味の失せてしまった映画のクライマックスを見直した。
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