音楽が聴こえる
あたしは悟の手の温かさを感じながら、今日出くわした光景を思い返す。


斉賀と確かあれは朝田梨花だった。


前の時間に提出してもらった国語の課題ノートを持って、近道に外階段を下りていた時のことだ。

空耳かと思うほどの囁くような声が耳に入ったのが最初だった。

あちゃ。こんな時間に隠れてデート?

お邪魔したくないから引き返そうか、なんて一瞬だけ迷ったけど。

授業時間に先生が引き返しちゃまずいでしょ、と自分を諌めて一歩足を踏み出した。

でも女の子の『ジュンヤ』と呼ぶ声で、またあたしの足は止まる。


……げっ、斉賀のラブシーン?

まあ、モテるのは分かるけど。

普通の生徒よりも気が引けてしまい、何となく動けない。


会話を聞いてると女の子の方がずっと積極的で、終いには斉賀に、ここでしようと誘ってるのが聞こえた。


あんた達ってバカ? もうっ。他所でやんなよ。

あたしは仕方無く、階段の踊り場に一クラス分のノートをぶちまけた。
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