音楽が聴こえる
「んな昔、覚えてねぇよ、茉奈ちゃん」

悟はあたしの肩甲骨の辺りを狙って、唇を這わせた。

「……肩、マッサージしてくれるんじゃなかった?」

「してんじゃん」

「悟のヨダレしか感じない」

悟の唇から、ブーと言う音が漏れ出た。

「息熱いよ、悟」

「茉奈がくだらねぇこと思い出すからよ」

悟はうつ伏せに寝ていたあたしの体から離れ、横にごろりと寝そべった。

「……あの頃、省吾さんに拾われなかったら俺、野垂れ死んでたわ。しょーもない、クソの役にも立たねぇ奴だったからなぁ」


初めて父が悟を家に連れて来た時、頭は金色で無表情な顔がすごく怖かったのを覚えている。

そして、今よりも鋭い瞳が突き刺さるようにあたしを見たことも。


「……中坊のお前、可愛いかったな」

薄暗いベッドの上で遠い目をして、優しい顔をしないで欲しい。

「初めて言われたような気がする」

「そーんなこと言ったら省吾さんに殺されんだろうが」



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