音楽が聴こえる
9.SPLASH

side 茉奈


◇◇◇
『ブルーバード』に初めて来たとき、あたしは小六の子供だった。

普通の親なら連れて来ないような場所。
でもあたしの父は普通とは違った人のようだ。

大人だけど何処か規格外の人。

父は父なりに自分の仕事を見て、子供なりにでも理解して欲しかったのだと思う。

とは言っても、大っぴらに小学生を座らせるわけにもいかないから、そっとカウンターバーの内側の片隅にあたしを座らせて。

父もドリンクなんて売りながら、足は楽しそうにリズムを刻んでいた。


ーーー
朝なのに朝の空気を感じられないライヴハウスは、染み付いた煙草の臭いが充満していた。

唯一、朝を感じられるのは天井近くに開いた横長の採光窓からの日射しだけ。


あたしは初めて『SPLASH』を聴いた時と同じように、ギゴギゴ不穏な音がする椅子に座っている。

隣に悟はいるけど、彼は壁にもたれて地べた座りだ。煙草の煙がボンヤリと漂う。
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