White Magic ~俺様ドクターの魔法~



「さみしい?」


そんなことを聞いてくれても、私は甘えることができなかった。


「お仕事だから仕方ないよ」


こんな物分かりのいい彼女を演じてしまうんだ。


「さすが、睦美は、僕のことをよくわかってくれてるね。嬉しいよ」


満足そうにそう言うと、口角をクッと上げていた。


・・・・・・あなたは、私のことを理解してくれていない。



この時私は、「一緒に行きたい!」とすがりついて「さみしい」って泣きだしたらよかったんだろうか?


そんなことしても、きっと自分が惨めなだけだ。



「寂しがってくれるなんて嬉しいよ」なんて笑顔で言うだけだ。




結局、私は最後まで自分の気持ちを伝えることができなかった。


いや、できなかったのではなくて、しなかったんだ。


アメリカへ行くと聞いた時、涙さえも出なかったのは、きっと、彼への愛情というのもが薄れていたからなんだ。


確かに大好きで付き合ったが、やっぱり私はずっと彼の前で無理をしていたのだ。



背伸びし過ぎていたんだ。


彼に見放されないように頑張ることに精一杯で、愛することを忘れていた。



付き合って、「好きだ」「愛してる」なんて言われて、嫌な気はしなかったが、ただ彼の言葉に酔っていただけ。


高級なお店へ連れて行ってもらって、プレゼントをもらって、満足して、ドクターと付き合っているというステータスを手放したくなかったのかもしれない。



初めてストレートに言われて、その雰囲気に浸っていたかっただけ・・・そう感じた。




そして、彼がアメリカへ行くまでの1ヶ月間は、恋人らしく振舞っていたが、もう心は離れていた。



彼が、アメリカに飛び立ってすぐに音信不通にすべく携帯番号、メールアドレスを変え、辞表を書き、彼との接点をなくした。



不思議と涙は出なかった。



苦痛の毎日から解放されるのが嬉しくて、早く時が過ぎたらいいのにと思った。



そして、私は彼の前から完全に姿を消した。



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