White Magic ~俺様ドクターの魔法~


「次は、俺の話を聞いてよね」


予想外の切り出しに「はい」としか言えなかった。


「俺さ、あの日・・・あの日って豊川の結婚式の日ね」


彼は唖然とする私をよそに、嬉しそうに話し始めた。


「ももちゃんを初めて見た時、可愛いなって思った。

俺さ、いつもはさ、なかなか自分から声を掛けたりできへんのやけど、あの時は、ちょっと酔ってて、気が大きくなっててさ・・・・・・

なんか軽く声を掛けてしまったんやけどさ・・・

でもさ、35にもなって一目ぼれってさ、ありえへんよな・・・・・・」



目の前で笑う彼の笑顔が、痛々しくて、私は笑うことができなかった。


「ももちゃんも笑ってよ!」


そんな、わざと軽く言う彼に笑い掛けようとしたが、きっと上手く笑えていないはず。


「うわっ、まずっ!」



苦手なはずのにんじんを食べて、渋い顔をしている彼を見て、私は吹き出してしまった。


「嫌いなんじゃ・・・?」



「うん・・・・・・」



涙目になっている彼と目を合わせて笑いあった。




******


「ももちゃん、もうやめた方がよくない?」


ファミレスを出た後、立川さんと映画館に行きホラー映画を観た。


そして、今は居酒屋に来ている。


そして今、私はありえないくらいお酒を飲んでいた。


今日あったことを忘れたかった。


こんなことをしても何の解決にならないけど、飲まずにはいられなかった。


車だからと飲んでいない彼を目の前に私は飲み続けた。



「あの男・・・・・・何も話さんと・・・

私がアメリカに行くなって言うと思ってるんか?

アホやし・・・あんな自分勝手な男・・・・・・

私が相手せな誰が相手するんよ!」


そう言って彼がニッコリ笑ってるのが頭の隅に残っているが、それ以降の記憶がない。



「ももちゃん、大丈夫?」


「ももちゃん、靴脱いで・・・」



そんな声が聞こえていたような気もするが、もうわからなくなっていた。




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