White Magic ~俺様ドクターの魔法~
「先生から話は聞いた。
先生、アメリカに行く話があるんやってな。
ずっと話そうと思っていたのに、ももの悲しむ顔を見る勇気がなかったんやって・・・・・・。
『行かんといて』って言われたら、日本に残るつもりやけど、ももはそんなことは言わずに我慢するから・・・・・・その姿を見ることができない。
かと言って、お前から仕事を奪いたくないって・・・・・・」
・・・・・・そんなこと言ってくれへんかったやん。
「それ、私に言うように言われたん?」
なんて可愛くないんだろう。
わかってる。
私が話す隙を与えなかったんだ。
それでも・・・・・・束ちゃんからそんな話は聞きたなくて、突っかかってしまった。
「もも!いい加減にしろ!先生と連絡を取って、ちゃんと話をしろ!」
束ちゃんには珍しく――初めてかもしれない――声を荒らげて私を叱りつけた。
涙が止まらない・・・。
次から次と溢れてくる・・・。
あんなに私のことを考えてくれてるのに・・・・・・それゆえに苦しめた。
私は、道の真ん中で、うずくまり泣いた。
「もも・・・・・・」
どれだけの時間、泣いていただろう。
私は、束ちゃんの声で我に返った。
「なぁ、素直になれ。
お前がぶつかって行けば、先生なら全てを受け止めてくれるから。
でもな、あの人も完璧じゃない・・・・・・お前が欠けていたらな」
束ちゃんは、私の頭をなでて腕を引っ張り立たせた。
「ごめんね」
束ちゃんに頭を下げるとバスに乗った。
俯いてバスに乗ってきた女に乗客は注目した。
ただでさえ色が白く顔色が悪く見られがちの私が、目を真っ赤にして泣いている。
まぁ、下を向いていてわからないだろうが、雰囲気で周囲は感じるとることができるだろう。
この女に何かあったことを。
いつものバス停で降りると、まっすぐ家に向かった。
近所の人に話しかけられたくおなかったので、ひたすら早足で歩いた。
「ただいま」
それだけを口にして、私は自分の部屋へ向かった。
そして、かばんを床に置くとすぐに、ベッドに寝転がった。
見慣れた天井を見つめて、大きくため息をつくと、目を閉じた。
『ちゃんと話をしろよ』
束ちゃんのまっすぐな眼差しと言葉が頭に浮かぶ。
『とりあえずさ、彼氏と話してみ』
立川さんの言葉が消えなかった。
それでも私は、瞬さんに連絡することはなかった。
私がいることで彼が悩むのなら、それを排除してしまえばいい。
私がいなければ、彼はアメリカに行ける。
望みを叶えることができる。
実際アメリカに行きたいなんて話は聞いたことはなかったが、神尾先生がこっちにに来て、3人で食事をした時、アメリカでの話をする神尾先生のことを羨ましそうに見ていたのを知っている。
――彼もアメリカで勉強をしたいんだ――
私の中では、ある覚悟をしていた。
だから、彼が話してくれなかったことにショックを受けた。
何も知らないと思われているのが気に食わなかったのかもしれない。
そして、私がアメリカへ行くことを迷わせている張本人であるなら、私は彼の前にいるべきではない。
そう思った。
それに、今話をしたら、「行かないで」と言ってしまいそうだから。