White Magic ~俺様ドクターの魔法~
Magic22 伝えるべきこと
つたえるべきこと
『救急室』と書かれた部屋の前で、たくさんの人が処置を待っていた。
ストレッチャーで運ばれていく人、イスに座り、痛みをこらえている人、床にうずくまっている人、痛みに泣く人、救急室の前で泣き崩れている人・・・・・・地獄絵図のようだった。
それぞれが自分が先に診察をしてもらいたいと医師や看護師に手を伸ばし、すがりつく。
しかし、重症患者の処置に追われているために軽症患者の処置にまで手が回っていない様子。
大学の看護学生の私に、何か出来ることはないかと周りを見渡した。
軽症の患者さんの手当ならできそうだったが、無資格者が医療行為をして病院に迷惑をかけたら申し訳ない。
それなら、私にできることは何?
私は患者さん一人ひとりに傷の程度や既往歴について聞き回った。
「どうされましたか?」
「物が落ちてきて・・・・・・・」
とりあえず話を聞くと、患者さんたちは落ち着きを取り戻してくれる。
そうするだけで、騒がしかったろうかは少しだけ静かになった。
何人かの問診を済ませた時、後ろから声をかけられた。
「君は?」
低くて通る声に私は振り向くと、青い術着が汗だくになっている一人の医師がいた。
「あのっ!!私、看護学校に通っていて、何かのお役に立てたらと思いまして・・・」
慌てて立ち上がったが、顔なんて見ることはできなかった。
もしかしたら、余計なことをしてと怒られるかもしれないと思ったから。
私が体を硬直させていると、その先生は私の手から1枚の紙を取り上げた。
「うん、よく書けてる。助かるよ。ありがとう。このまま続けてもらってもいいかな?」
「はい!」
一瞬だけ見ることのできたその先生の表情は、優しかった。
それくらいの印象しかなかった。
「あっ、でも君も処置しないとあかんね。傷も深そうやし」
そう言うと、先生は看護師に声を掛けて、処置室に連れて行くように言ってくれた。
処置も終わり、私は再び問診を始めたが、二度とその先生に会うことはなかった。