White Magic ~俺様ドクターの魔法~
「ってか、お前、なんで通り過ぎた?」
えっ、そこ聞きます?こんな「走り屋」みたいな車に乗っているなんて思いませんでしたなんて言ったら、殴られそうやん。
いや、殴られたことないけど。
「ボーっとしてまして・・・」
ものすごく苦しい言い訳をしてしまい、絶対に鋭いつっこみを入れられると覚悟をしていたが、敵はそこまで攻撃はしてこなかった。
むしろ・・・優しかった。
「何?何かあったんか?疲れてるんか?」
運転しながら言ってくれた台詞に私は驚いて、隣の先生の横顔を見つめてしまった。
しかも、不覚にもドキドキしてしまった。
「なんや?またボーっとしてるんか?大丈夫か?」
横目でちらっと私の顔を伺いながら言ってくれる言葉も優しくて、どうも調子が狂った。
そして、顔が熱くなってきた。
これは、きっと、暖房のせい。そう言い聞かせた。
「あっ、大丈夫です」
私は俯いて、そう言うしかなかった。
そして、自分の服装に気付いた。
「あっ、先生、私こんな服装で大丈夫ですか?」
「服装?あぁ、そんな気にすることないし」
「そうですか・・・先生達が行かれる所って、マナーが厳しそうだから・・・」
私は気まずくて俯いたまま話した。
「何それ、何気に高級ディナーに連れて行けって言ってるの?」
「ち、ちがいます」
慌てて顔をあげて否定すると、先生はニヤリと笑っていた。
うわっ、催促したみたいになってしまったし。
めっちゃ恥ずかしい。
私は逃げ出したい気分を抱いて流れていく景色を眺めていた。
「俺、あぁいうののが苦手やから」
「えっ?」
「かしこまった場所。上野山とかと行くのとか、そこらへんの居酒屋だし」
そうなんや・・・・・・。
ドクターって高級車で高級なものを食べて、高級な服を着てるイメージだったんだけどな。
まぁ、前の職場のドクターは、ほぼそれに当てはまっていたけど・・・・・でも、佐々木先生は、走り屋の車に居酒屋、ラフなデニムにさりげなくダークグレーのニットを合わしている。
「ふふふ・・・」
「何?いきなり笑って気持ち悪いな」
「あっ、すみません。なんか、意外で・・・」
いつも厳しい表情をしている佐々木先生の意外な面が見ることができて、少し嬉しくてつい笑ってしまった。
「そうか?どんなイメージを持ってたん?」
「えっ・・・」
思わず言葉を詰まらせた。
イメージ・・・いつも眉間に皺を寄せていて、看護師を怒っているイメージしかない。
でもたまに控えめな笑顔を見せてくれる。
・・・・・・なんてことは言えない。