White Magic ~俺様ドクターの魔法~
点滴室には、まだ人の気配があり、とりあえず安心した。
そっと近付くと、先生は気持ちよさそうに寝息をたてて眠っていた。
「針を抜きますね・・・・・・」
「う・・・・・・」
小さな声で声を掛けたが、どうも起こしてしまったらしい。
「あっ、ごめんなさい」
「あ、俺寝てた?」
まだ眠そうな目をこすり、私に聞くと、一つ大きなあくびをした。
「はい、気持ちよさそうに寝ていましたよ。気分はどうですか?」
涙目になった先生の顔色を伺いながら聞いた。
顔色は少しましになったようにように思えた。
「うん、だいぶましかな」
どんなに良くなったように見えても、やはり本人の気分を聞かない事にはわからない。
だから、先生の言葉は、私にとって一番安心できた。
「それはよかったです」
ゆっくりと頷きながら、私は言った。
「ごめん、仕事中やのに」
ゆっくりと起き上がりながら言う姿は、まだ辛そうで「無理しないでください」と先生の背中を支えた。
「私のことより、先生、帰れますか?」
先生の顔を伺うように聞くと、「車だから大丈夫」と少し笑みを零しながら言っていたが、その笑顔も引きつっていた。
「家に着いたら、メールくださいね」
このまま一人で返すのは心配だったので言った言葉だった。
しかし、顔を見て言うのは照れくさかったので俯いて言ってしまった。
先生からの返事がないので不安になり顔を上げると、目を丸くして驚いた表情をしている先生がいた。
「いや、途中で事故に遭ってないかとか心配なので・・・・・大丈夫ですか?」
突然口元を押さえて顔を背けたので、気分が悪いのかと思い、顔を覗きこんだ。
「いや・・・・・・」
「えっ?」
口元に手を置いたままなのでよく聞こえなくて聞き返すと、勢いよく振り返った。
「少しでも俺のことを考えてくれてるのが嬉しい・・・・・・」
今までに見たことのない笑顔でそう言われると、一気に顔が熱くなっていった。
「・・・・・・」
あまりにも恥ずかしくなってきたので、何も言うことができなかった。
「あぁ、なんか元気出てきたなぁ」
大きく伸びをしながら言う先生は、少年の様な表情をしていた。
「そろそろ、帰るわ」
ベッドから下りてニッコリ笑うと、軽く私の頭をなでて「ありがとう」と控えめに言い、服装を整えていた。
・・・・・・先生に触られた頭が熱い。
心臓が、また激しく動いている。どうしたらいいんだろう。
「じゃぁ、帰る」
「気をつけて」
私達は別々に点滴室を出た。静まり返る廊下を歩いていると、自分の激しい鼓動が周りにも聞こえるのではないかとビクビクしていた。