甘いヒミツは恋の罠
「堅苦しいかもしれませんけど、私はあくまでもアルチェスの社員です。だから、今後、たとえ大野さんに機密事項を問われても答えることはできません。それをわかってもらいたくて……」


 膝の上で握り締めている拳の中は汗で濡れていた。大野はじっと紅美を見つめると、ふっと笑った。


「やっぱり、あなたは僕が見込んだだけの女性だ」


「え?」


「ごめんね、僕もうっかり馴れ合ってしまったな。どんなデザインをしているか聞くなんて失言だったよ。機密事項ね……でも、紅美さんが安易に僕に答えていたら、それはそれできっと興醒めしてしまっただろうな」


 大野がゆっくりとワイングラスを持ち上げてそれを口に含む。そのひとつひとつのしぐさに気品を感じる。
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