甘いヒミツは恋の罠
「沢田、その店長ってやめろって言ってるだろ」


「す、すみません……」


 いつも紅美に嫌味ばかり言ってくる沢田だったが、朝比奈の前ではそんな影も形もなくぺこぺこと低姿勢で頭を下げていた。


「今回のフェア、デザインの締切まで結構余裕だったんですよ。ブレスレットのデザインは初めてだったんですけど……あの、私のデザインどう思いますか?」


 すかさず結衣が朝比奈にもじもじしながら尋ねる。


「あぁ、締切まで余裕があったんならもう少し練ればよかったんじゃないか?」


「え……」


 思わぬ朝比奈の冷たい返答に、結衣の表情がみるみるうちに強ばっていった。


「あの、北野さんだって色々頑張って考えたんですからそんな言い方って……」


 紅美が結衣を庇うように朝比奈に言うと、朝比奈は目を細めて低く言った。


「俺は最後の最後まで粘れる人間を買っている。こういうのは早けりゃいいってもんじゃない」


 そう言い残すと、朝比奈は業界の関係者に挨拶まわりに行ってしまった。
< 133 / 371 >

この作品をシェア

pagetop