甘いヒミツは恋の罠
「あれ? あなたは……皆本さん?」


 店の雰囲気には似つかわしくないスーツ姿の男性が一人、ぽつんと紅美の前に立っていた。


「あ……えっ!? 朝比奈……社長?」


 そのインテリな風貌がより場のミスマッチさを強調していた。まさかの人物に紅美は、思わず目を丸くしてアクセサリーに伸ばしかけた手を止めた。


「いや~すごい人だね、この店、実は私の知り合いが出した店でさ、挨拶をしに来たんだけど、それどころじゃなさそうだね」


 店の奥で小奇麗な背の低い女性がニコニコしながら客と会話を交わしている。パーマがかった髪の毛を後ろに束ねて気立ても良さそうだ。


「あの方が……店長さん?」


「そう、彼女ああ見えても二児の母だからね。皆本さんは? 瑠夏と一緒なのかな?」


「え? 朝比奈さんと? 違いますよ! 一人で来ました」


 ついムキになって口調を強めると、それを怪訝に思った朝比奈社長が首を傾げた。
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