甘いヒミツは恋の罠
 日が高くなってくると、幸い雪も溶け出し車もスムーズに道を走ることができるようになっていた。


「思ったより雪解けが早くて良かったですね」


「あぁ、そうだな」


 山を下りていくと小さな町が姿を現し、朝比奈がいつも買い出しをするという店の店主に挨拶をしていくというので、紅美もそれに付き添うことにした。



「瑠夏ちゃんが都会へ帰っちゃうと寂しくなるわねぇ、しかもこんな可愛い彼女がいたなんて!」


「しょっちゅう来てるんだから寂しがることないだろ」


 朝比奈は、少し照れた笑いを浮かべながら普段見せることのない表情で店主と会話を交わしていた。


(朝比奈さん、なんだか楽しそう)


 そんなほのぼのとした雰囲気に、紅美は頬を緩ませ安らぎを覚えた。


「おっと、電話だ。山から下りると必ず電話がかかってくる」


 ようやく捕まえたと言わんばかりに、朝比奈の携帯がけたたましく鳴り響く。


「悪い、ちょっと外に出て話してくる」


「はい」


 朝比奈は、その着信を画面で確認すると一瞬険しい顔になりそそくさと店の外へ出ていった。


(朝比奈さん……?)


 そんな朝比奈が気になって、紅美は店を出て行くその背中を杞憂に見つめた。
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