甘いヒミツは恋の罠
※ ※ ※


(うぅ……き、緊張する!)


 食事だけならと妥協して、大野に案内されるがままマリオンホテルのレストランについていくと、やはり場違いな雰囲気に紅美は居た堪れなくなった。


 館内のエントランスに入った時には大きな噴水が出迎え、予約していたというレストランは夜景の見える高級フレンチレストランだった。


「緊張しないでくださいね。あ、そうだ、喋り口調も少し崩してもいい? こういうのはなるべく早い段階で慣れておいたほうがいいから」


「そ、そう……ですね、あ、じゃなくて! そう、だね」


 宝石を散りばめたような夜景が高級感をさらに煽って紅美を緊張させる。運ばれてきたせっかくの料理も、ほとんど味がわからなかった。


「今日のお仕事はどうだった? 今、季節の変わり目だからデザイン部も忙しいんじゃないかな?」


「えぇ、そうなんです。新しいデザインをいま考案中で……私はネックレスの担当なんですけど、なかなかアイディアが浮かばなくて……」


 仕事の話しをしだすと心なしか徐々に緊張も解れてきた。紅美はワインで喉を潤しながら、朝比奈のことについていつ尋ねようかとタイミングを見計らっていた。
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