甘いヒミツは恋の罠
「どうかした?」


「い、いいえ」


(別に、朝比奈さんのことなんか関係ないし……!)


 言葉が途切れた紅美を怪訝に思った大野が、じっと見つめながら次の言葉を待っている。紅美は朝比奈のことを頭の片隅に追いやって話しを続けた。


「これ、ピジョンブラッドっていう種類のルビーだそうです。ルビーなのは知ってたんですけど、種類までは知らなくて……朝比奈さんに教えてもらいました」


「……ふぅん」


「かなり状態のいいものだって、それで私の半年分の給料で買い取るって言われたんですよ、結局、朝比奈さんの冗談だったんですけど」


 あはは、と紅美が笑ってみせると大野は無言で紅美の話しを聞きながら、じっとルビーに視線を向けていた。


「半年分の給料……ね。ものすごく興味深いルビーだね、今度じっくり見せてくれないかな」


「え? えぇ……」


 なんとなく嫌な予感がしたが、紅美は戸惑いながらも返事をした。そんな気持ちが伝わってしまったのか、大野が優しくにこりと微笑んで言った。
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