短編集
心が前向きになれた所で、ふと立ち止まった。
足元の白いチョークの矢印を見て、考える。
もしかして……
私の気持ちを前向きにするために、彼はわざわざ団地を一周させたのではないかと。
すぐに首を横に振り、考え直した。
私より随分年下の男の子が、そこまで考えたりしないだろう。
私の方がお姉さんなのに、彼の思惑通りに気持ちが動いたとしたら、悔しい。
再び矢印を追って、歩きだした。
矢印は2号棟に戻ってきた。
2号棟の横を通りまっすぐ進み、土の地面で途切れてしまった。
目の前には、児童公園。
土の地面には、チョークの矢印が書けない。
次の矢印はどこに繋がるのだろうと、キョロキョロ見回す。
すると、
驚く景色が目に飛び込んできた。
無人だった公園に、一人の人影が。
その人は夕陽に照らされたベンチに座り、手の平で白いチョークを遊ばせていた。
背中を向けているから、顔は見えないけど、
すぐに誰か分かった。