短編集
未練がましくここまで来たのは間違いだった。
余計に淋しくなっただけ。
外玄関の扉をガラガラと開けると、薄暗い建物内に光の帯が差し込む。
その光はコンクリートの壁と、そこに掛けられた小さな黒板を照らしていた。
扉に掛けていた手を外し、黒板に歩み寄る。
小さな黒板には、白いインクで当番表と書かれ、曜日と枠線が引かれている。
階段の掃除やゴミステーションの管理など、住人に割り振るための黒板だ。
当番表以外のスペースは、連絡欄と書かれている。
『木村夢ちゃん、朝陽新聞書道コンクール金賞おめでとう!』
一年前の私に関するお祝いメッセージも、まだ消されずに残されていた。