青い記憶


「じゃあ、お母さん、行ってくるね!」

話しながらテキパキ、手を動かしていた
お母さんは準備を終えたようで


「あ、うん、いってらっしゃい」

お食事に行ってしまった。




-今思えば、この時の全てが非日常だった気がする。

お母さんと話している間に遠くから聞こえていた救急車の音も


『いや〜、なんか、道混んでてさ〜』
いつもより遅くなったお父さんの帰りも


料理の得意なお母さんのカレーの
味がわからなかった事も


『愛梨・・・』

誰かに呼ばれた気がした事も



全部、全部、
おかしかった。


全部あの電話が来る前には
気づけなかった

異常。




トゥルルルル・・・

「あ、歩くん家からだ!
俺出る!」


「えっ?あゆ・・・」

この時、少し期待してた。

歩、私が明日誕生日だから謝ってくれるんじゃないのかな?

私と同じように仲直りしたいって、
そう思って電話してくれたのかな?

って

「はい!もしも・・・

え?
おばさん?・・・大丈夫?

落ち着いて・・・」

小生意気になってきた誠也から
冷静な、でも、少し怯えた声が放たれて


次の瞬間
中学生にもなった男の子の頬を

涙が流れた。

「ど、どうしたの!?誠也!?」

呆然とする彼は口をパクパクさせてて
上手く喋れない、そんな風だった。

「あ、あゆ、むくん、
事故に・・・車に、はねら、て








重傷だって-・・・」



その後の記憶はあまり定かじゃない。

とにかく、歩に会わなきゃ、

謝らなきゃ、

歩に言わなきゃ、本当の気持ち

それだけが浮ついた世界に私は駆けていた。

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