カタコイモノガタリ。
「バレーボール?」

足元に転がってきたのは、バレーボール。
私が手で持ち上げると、ボールを落としたらしき人物がこちらに向かって走ってきた。

ブレザーのタイに黒い線がいっぽん。

1年生だった。

「すみませーん!バレーボール!そっちいきませんでしたかぁぁー?」

叫びながらトコトコこちらへ向かってくる少年は、息をぜぇぜぇきらしながら、私の方をガン見。

「えっ!?3年せ……すっすみませんすみませんっ!」

タイの線の本数で気づいたのか、頭をぶんぶん下げて謝ってくる。
別に私は気にしないのだけれど

「大丈夫だよ、はい。これ、ボール」

手に持っていたバレーボールを少年に渡す。何度もすみませんっ!と謝りながら、友達らしき子達の元へ走っていった。

「美夜ぁ。あの子律儀だったねぇ〜」

もぐもぐとパンを食べながら、私に問い掛けるみどり。
リスみたいで可愛い……。

「まぁ確かにそうかもね。最近の後輩にしちゃ礼儀正しい方かもしれないわね」

「ほんとだよねぇ〜」

中庭でのお昼。
バレーボールと1年生。
桃希兄さんへの想い。


この日、あの1年生と出逢って、私の物語は大きく変わり始める事になるのを

まだ、誰も知らない。
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