カタコイモノガタリ。
「どうしたんだ?美夜、暗い顔して」


私の頭の位置までしゃがんできてくれる桃希兄さん。
頭を優しく撫でてくれる桃希兄さん。

本当は欲しいのは こういう好き じゃないのに

夕暮れ時の坂道で、優しく頭を撫でてくれる桃希兄さんが 鈍感過ぎて苦しい

私が、桃希兄さんを好き過ぎて苦しい
メガネのレンズが滲んでくる。

じわっと目頭が熱くなる。

それに気づいたのか、気づいてないのか
桃希兄さんは、私をゆっくり抱き締めた。

優しく、優しく、優しく。
抱きしめながら、頭を撫でる。

桃希兄さん、桃希兄さん、桃希兄さん、桃希兄さん、桃希兄さん。

好き。好き。好き。好き。好き。好き。

このあったかいぬくもりも
この大きな手のひらも
この優しい声も

私のものにならない事くらい
分かりきっている。

桃希兄さんは、手で私の涙を拭うと 誰もが見惚れるような優しい笑顔でこう言った。

「ごめんな」

何が、何を、誰が?誰に、

頭が真っ白になっていく。

冷や汗。肩の震え。ピタリと止まった涙。
離れていく桃希兄さんの体。頭を撫でる事をやめた桃希兄さんの手

嫌な

予感しか

しなかった。
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