冷たい上司の温め方

「ですから、こちらの書類を先にください」

「あ、すみません」


同じ新入社員なのに、こんなに立ち場が違う。
すみませんではすまないことが、たくさんあるんだからね。と、先輩風吹かせたくもなる。

まだ学生気分の抜けない人たちが、うらやましくもあったけど、そんな風になりたいとは思わなかった。

たとえ雑用だったとしても、もうこうして働けているのだ。
彼等よりは一歩リードだ。


「麻田さん、ありがとう。君も新人なのに。
楠の下、大変だろう?」


一課の三田(みた)さんが話しかけてくれる。


「そうですね……」


思わず本音が出て、慌てて口をつぐんだ。


「いえ。他にお手伝いすることがあれば言ってください」

「悪いね。それじゃあ、この書類を先に人事に届けてくれる?」

「はい」


手にいっぱいの書類をもった私は、自分もいるはずだった会場を出た。

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