冷たい上司の温め方
「麻田」
「はい」
「これ、先に販売促進部に持って行けと言ったはずだが」
人事に戻ると、早速楠さんから呼びつけられる。
そんなこと言ったって、私だって精一杯頑張ってるのに。
「いいですよ。俺が行きます」
「ダメだ。麻田が行け」
見かねた笹川さんが私に助け舟を出してくれたけど、楠さんは冷たい声で却下した。
ちょっとムカつきながら廊下に出ると、遠藤さんの姿が見える。
「遠藤さん! こんにちは」
「麻田さん、頑張ってるわね」
遠藤さんに会って少し気が緩む。
懐かしい場所に戻ってきたかのようだ。
「頑張ってるんですけど……楠さんの人使いが荒くて」
思わず愚痴が出たのは、遠藤さんがお母さんのように受け止めてくれる人だからだ。