冷たい上司の温め方
「小さい頃、熱が出るとよく食べたな」
「そうなんですか? 私と一緒!」
顔が緩んだ。
やっと楠さんが冷たい仮面を外してくれた気がしたから。
楠さんはプリンを一口、口にした。
「お母さんが買ってきてくれたんですか?」
「あぁ。十年ほど前に死んじまったけどな」
「えっ……」
触れてはいけない部分に触れてしまったのかもしれない。
私は激しく動揺した。でも……。
「気にするな。もう昔の話だ」
「……はい」
彼が優しい顔で微笑むから、安心した。
楠さんはプリンを全部食べてくれた。
「おかゆ、食べられますか?」
「あぁ。後でもらうよ」
とりあえず少しでも食べてくれたことに安堵する。