冷たい上司の温め方

「はい。楠に言われ、私が参りました。
奥様、加納部長が病院に来るのを楽しみにしているとおっしゃっていましたよ。それでは」


私を促した笹川さんは、部長を残して部屋を出た。
ドアが閉まった途端、むせび泣くような声が廊下にまで聞こえてきて、私まで泣きそうになる。


そのまま人事に戻ると、他には誰もいなくなったフロアで楠さんがコーヒーを口にしていた。


「楠さん、私……」


たまらずポロッと涙がこぼれた。

この人、冷酷な仮面をかぶっているくせに、本当は優しい人なんだ。


「いちいち泣いていたら仕事にならない」


その言い方が冷たいんだってば。


「さてと、楠さん。飯行きません?」

「俺はいい。麻田と行って来い。お先」


楠さんは笹川さんの提案を断ると帰っていった。

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