冷たい上司の温め方
「麻田。今日から十二階のトイレを使え」
「は?」
次の朝、出勤早々楠さんに言われたのは、驚くような言葉だった。
トイレの指定って……なによそのセクハラチックな発言は。
しかも十二階って……ここは十八階なのだから、わざわざ六階も降りないといけない。
「どうしてですか? 女子トイレ、工事ですか?」
「いや違う。とにかく十二階だ。シモベは黙って言うことを聞け」
仕事のことなら仕方がないにしろ、トイレまでどうして楠さんに決められなくちゃ、いけないのよ。
無視してやろうかと思ったけど、なんとなく十二階に向かってしまうのは、なにかわけがあるのかもしれないと思うからだ。
あの人はいつも、肝心なことは言わないから。
十二階は総務部のあるフロアだ。