冷たい上司の温め方
「ありがとうございます。
そういえば、このスーツを買うのに、ここでいただいたお給料をつぎ込んだのが懐かしいです」
まだほんの少し前のことなのに。
「そうなの?」
「はい。
楠さんに、入社までにそれなりの恰好できるようにしておけって言われて、もう半分意地でした」
あの時は失礼な人だと怒っていたけど、身なりが大切なのは良くわかる。
だらしない服装では、他人のことを注意したりできないし、なにより気分がシャキッとするのだ。
「そうなの?
楠君だって、最初からお洒落だったわけじゃないのよ。
彼も苦学生だったから貧乏で、スーツを買うお金もあんまりなかったみたい」
意外だ。
今はどこもかしこも隙がなく、お洒落な雰囲気が漂っているのに。
それに……苦学生だった面影なんて全くない。