冷たい上司の温め方

「お前に『クビだ』と言われて、『はいそうですか』と言うやつがどこにいる。
笹川だってずっと下積みしてきて、やっと言葉に重みが出てきたんだ」


そう言われると、その通りだ。
きっと楠さんだって、そういう道をたどってきたのだろう。

遠藤さんが楠さんは苦学生だったなんて言っていたし。
努力をすっ飛ばして人格者なんかになれるわけがない。


「一回目の面接をする。今日の就業後だ」


楠さんはさっきの書類をチラッと私に見せた。

そんなに早く?

まだ心の準備が整っていなかったけれど、これも仕事だ。
私は気合を入れ直した。


営業部の飯田(いいだ)さんは、時間を少し遅れてやって来た。


「失礼します。なにか私に?」


小さな会議室に三人だけ。
私はまた端に座って様子を見ているだけだ。

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