冷たい上司の温め方

「ふー」


楠さんはメガネを外して天を仰ぐ。

彼がそんな風に溜息をもらすのを初めて聞いた。
やっぱり楽な仕事ではない。


「麻田」

「はい」

「俺達の仕事は、誰かの人生を左右する。
それが悪い方に向かうことの方が多い。だから……」

「大丈夫です」


本当は、大丈夫じゃないかもしれない。
だけど、楠さんや笹川さんの姿を見ていると、私だって踏ん張りたいと思うのだ。


これからもっと辛いことが待っているかもしれない。

だけど、楠さんの痛みを少しでも引き受けることができたら……。
そう考えるのは、目の前の彼が、弱っているように見えるからかもしれない。


「わかった。さて、帰るか」

「はい。飲みに行きましょう」


このまま彼をひとりにしたくない。

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