冷たい上司の温め方
飯田さんが出て行ったあとの苦々しい顔。
あれが楠さんの本当の姿なのだと思う。
ただ冷たい仮面をかぶって、淡々とクビを宣告しているわけではない。
少し酔ってしまった。
まずい。酔いすぎると泣く面倒な女なのよ、私。
楠さんを笑わせたいのに、今は泣きたくなんかない。
「そろそろ帰るか」
いつの間にかウーロン茶に変えている楠さんは、飲めないと言うわりには全然酔っているように見えない。
「今日は私が誘ったから、おごっちゃいます」
「後輩におごらせる趣味はねーんだ」
私の手から伝票をスルッと奪った彼は、さっさと会計に向かう。
楠さんの後ろ姿を見ていると、泣きそうになる。
どうしてそんなに頑張ってるの?