冷たい上司の温め方

もしかしたらこの人は、クビを切った人達の人生までも背負っているのではないかと思う。

クビになった人達に非があったとしても、だ。

その人達の家族がどうなってしまうのか、きっとそこまで考えて、それでもしないといけない仕事なのだ。
たとえ、皆に酷い男と言われても……。


店を出ると、楠さんが駅に向かって歩き出す。
私も慌ててついていったけど……。


「どうした?」

「いえ……」


ダメだ。やっぱり酔ってる。
溢れだした涙が止まらなくなってしまった。


「泣いてるじゃないか」


慌てて顔をそむけたけれど、ばっちり見られてしまったようだ。


「だって……楠さん辛そうなんだもん」


鼻をすすりながらそう言うと、楠さんがメガネの下の目を丸くして驚いている。

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