冷たい上司の温め方
「麻田、お前……」
「ひとりで我慢しないでください。
私だって話を聞くくらいできるもん」
本当はなにもできない。
私なんかには、なにも。
「言うな。お前」
彼のお決まりのセリフ。
だけど今までで一番優しく笑った彼は、「ありがとな」とつぶやいた。
涙をゴシゴシ拭いて、楠さんと一緒に電車に乗り込むと、少し気持ちが落ち着く。
もしかしたら、とんでもなく偉そうなこと、言っちゃったかも。
しばらく黙ったまま電車に揺られると、彼は当然だと言わんばかりに、私の家の最寄駅で下車する。
そして私は、断っても無駄な気がして、ありがたく送ってもらうことにした。
駅を出ると、長い足でさっさと歩いて行ってしまう彼に小走りで駆け寄る。
「ちょっと、待ってくださいよ」
「俺……必死なのかもしれないな」
「えっ?」