冷たい上司の温め方
飯田さんはもう大丈夫だ。
今日だって必死に契約をとってきたのだから。
首切り屋、というより、更生屋?
そんな気がした。
帰りの電車は笹川さんと一緒だった。
楠さんはどこに行ったのか、さっさと消えてしまった。
まったく、彼らしいというか、なんというか。
「麻田さん、疲れたでしょう?」
「いえ、緊張しましたけど、大丈夫です」
隣に座る笹川さんは、いつも私をいたわってくれる優しい人だ。
「でも、今日はちょっと覚悟してたので、ほっとしました」
「そっか。解雇の瞬間、経験してないもんね」
笹川さんは大阪でひとりで対峙してきたのだ。
ふたりとも強い人だ。
「俺、他の会社だったら……というか、楠さんの下じゃなかったら、人事なんてとこすぐに飛び出そうと画策した気がする」
私は頷いた。
すごいストレスだもの。
「だけど、楠さんは簡単に切る人じゃないから」