冷たい上司の温め方
楠さんが連れていってくれたのは、大通りから一本入った路地裏の「リアン」という小さなカフェレストランだった。
「いらっしゃいませ」
目立たないお店なのに、小さな店舗は満席に近い。
「すみません。あちらの席しか……」
マスターらしき人が、一番奥の窓際の席に案内してくれた。
「なににするんだ?」
メニューを私に差し出した楠さんは、私を急かす。
仕事じゃないんだから、ゆっくりさせてくれたっていいじゃない。
「待ってくださいよ。楠さん、決まったんですか?」
「あぁ」
「じゃあ、同じで」
だって、どれも美味しそうだもの。
メニューを見ることもなく決まっているということは、常連なのだろう。
それなら、美味しいものを知っているはずだ。