冷たい上司の温め方
「そうなんですか?
私も……一番好きなのはカレーです。
母が作ってくれたカレーが一番好きなんです。
隠し味に、ココアが入ってるんですよ?」
「ココア?」
楠さんは眉間にシワを寄せて、あからさまに嫌そうな顔をする。
「苦みが出て美味しいんですって。今度作りますよ!」
調子に乗って、『作ります』なんて言ってしまったけど、恋人でもないのに、大胆な発言だったかもしれない。
だけど……。
「本当に美味いのか?」
「はい。保証します」
「なら、食ってやってもいい」
水に手を伸ばした楠さんから思わぬ返事が返ってきた。
会話はぎこちないけれど……相変わらず上から発言だけど……会社の時とは違って、楠さんの表情が柔らかく見える。
この方がいいのに。
メガネの下の目を光らせているより、笑っていた方がずっといい。