冷たい上司の温め方

楠さんに笑ってほしい。
いつの間にか、そんなことばかり考えていた。


「生意気な。男の扱い方を知っているような言い方だな」

「えぇ、知って、ます?」

「なんで疑問形だ」


会社とは違う、穏やかな時間が流れた。

リアンを出るとき、彼は伝票をさっと持って、私の分まで払おうとする。


「あっ、自分で……」

「俺は約束は守る主義だ」

「約束?」


そういえば……陰口をきいて、食堂のランチが食べられなかったとき、おごってやると言っていたような。


「ごちそう様です」


彼の優しさがうれしくて、素直に頭を下げた。


「さて、なにして遊びます?」

「お前は子供か」


偽彼氏だけど、デートなんて久しぶりだ。
相手が冷血な楠さんだとしても、うれしい。


「私、行きたいところがあるんですけど……」

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