冷たい上司の温め方

慌てて歩き出した私に渋々ついてくる楠さんは、まぶしそうな顔をして空を見上げている。


たまにはこういうのもいいと思う。
毎日、ストレスのたまる仕事ばかりして、家でも部屋にこもっていると、必要以上に気が滅入るものだ。


「もう暑いですね」

「そうだな」


私の後ろをついてくる彼に振り向いてそう言うと、表情が柔らかくなっていてホッとした。


「ジュース、飲みます? 私、おごります」


財布からお金を出して自動販売機に入れると、勝手にコーラを買う。


「はい。どうぞ」

「お前さ、普通なにがいいか聞くだろ?」

「あぁ、そうですね。
まぁ、いいじゃないですか。
仕事で気を使ってるんだから、休みの日くらい」


暑くなってきたから、なんとなく炭酸。
ただそれだけの理由だったんだけど……。


「お前、仕事で気を使ってるんだな。あれでも」


『あれでも』を強調した楠さんを無視して、自分は微炭酸のオレンジジュースを買った。

私も嫌味をスルーする技術が身についてきたようだ。


< 258 / 457 >

この作品をシェア

pagetop