冷たい上司の温め方
「この水、気持ちいいんですよ」
しゃがんで水にを伸ばすと、隣に座った楠さんも水に手を入れた。
「冷たいな」
「そうでしょ?」
「お前、こういうところに落ちそうだな」
なんで、バレたんだろう。
「あはは」
小さい頃、実家近くの小川に流れる葉を取ろうして、全身びしょ濡れになった記憶かある。
「楠さん、そういうことしなさそうですね」
「しないな」
「なんだ。つまんない人生ですね」
思わず出た言葉だった。
でも……メガネのフレームに触れた彼は、悲しそうな目をして水に再び手を入れた。
「そうだな。つまらない人生だ」
冗談のつもりだったのに……。
もしかしたら、いけないことを言ってしまったのかも。
「あ、あのっ……」
「お前みたいに、楽しければよかったんだが」
楠さんはちょうど流れてきた葉を、うまくすくい取った。
小さな頃、私が取れなかったものだ。