冷たい上司の温め方

私は小さく頷いた。


首切りの面接に立ち会った私は、楠さんが真剣に社員のことを考えていることを知った。


「昔、一緒に飲んだ時……と言っても飲んだのは俺だけだけど」


そばを食べ始めた笹川さんは、記憶を手繰り寄せているようだ。


「なんでも、サッカー選手を目指していて、プロのスカウトが時々見に来るまでになったんだけど……やめないといけなくなったとかなんとかって聞いた覚えはあるな。
まぁ、俺も酔ってたから、どこまで正しいかわかんないけど」


サッカー選手?
私は楠さんの部屋にあった写真を思い出した。

仕事しか興味のなさそうな楠さんは、スポーツなんて興味なさそうだけど、時折まくっている袖から見える腕には、程よい筋肉がついている。

プロも注目するようなサッカー選手だったと言われても、ピンとこないけど。


「その時、珍しく溜息ついてたから、楠さんにとっては大きな挫折だったんだろうなと勝手に思ったんだ。
そういうことって、関係あるんだろうか。
過去のトラウマ、ってヤツ?」


どうなんだろう。
誰にだってひとつやふたつ、挫折はあるものだけど……。

もしも本気でプロ選手を目指していて叶わなかったのだとしたら、楠さんの人生は、そこで大きく狂ったのかもしれない。

< 266 / 457 >

この作品をシェア

pagetop