冷たい上司の温め方
「お前がやるんだろ?」
「できる訳ないでしょ。教えてくださいよ」
やっぱりサッカーにいい思い出がないのかもしれない。
でも、プロを目指すほど好きだったのなら、楽しかった気持ちを思い出してほしい。
「できないのに、持ってくんなよ」
「だって、運動音痴じゃ、モテ男になれませんよ。ほら」
訳のわからない言い訳をしながら、無理やり楠さんの腕を引いて立ち上がらせると、ボールを持たせる。
「誰が運動音痴だって?」
メガネのフレームをあげながら私をにらむ楠さんに、ビビるけど……。
「じ、じゃあ、証拠見せてくださいよ」
怖いから。
眼鏡の下の鋭い瞳には、いつも参る。
「まったく」と溜息をついた楠さんは、その場でリフティングを始めた。