冷たい上司の温め方
「ちょっと、うますぎます」
何度も何度もリフティングを繰り返す彼は、同じ場所からほとんど動かない。
完全にボールをコントロールしているのだ。
プロを目指していたと言われても、納得できる。
「ほら、やってみろ」
「私?」
今度は意地悪そうにニヤリと笑って、私にボールを差し出す。
そもそもサッカーなんて小学校の体育くらいでしか経験がない私に、リフティングなんてできるわけがなく……。
「あー」
すぐにあちこちに飛んで行ってしまうボールを追いかけるだけの、別のスポーツになってしまった。
「下手すぎるだろ」
それでも、私の様子を見て、楠さんがクスクス笑ってくれるのがうれしい。
「教えてくださいよ」
「無理だ。素質がないのにもほどがある」