冷たい上司の温め方

いなりずしを口に運ぶ楠さんをじっと見つめて息を呑む。
子供の好むような食べ物が好きな彼なら、いなりずしも好きなはずだと思ったんだけど……。


「どう、ですか?」

「あぁ、うまいよ」

「やった!」


楠さんに褒められた。
仕事じゃないけど……それでもうれしい。


『すごくうまい』なんて褒めてくれる人ではないとわかっている。
だから、淡々と箸を口に運ぶ姿を見ていると、合格点がもらえた気がして、私の食も進んだ。


「これ、なんだ?」


楠さんが箸でつかんだのは……。


「タコさんですよ、タコさん」

「宇宙人かと思った」

「あ……そうとも、言います」


彼がつかんだウインナーは、言われてみればタコというより宇宙人に見える。

楽しかった。
あまり話さない楠さんと一緒でも、勝手にひとりで楽しんでいた。

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