冷たい上司の温め方
「経済的な、理由だ。遠征に行けなくなった」
彼の答えは、まったく予想外だった。
「それって……」
私が深く聞こうとすると、彼はボールを持って立ち上がり、リフティングを始めた。
あまり大きく動くことなく淡々と続ける彼を見ていると、悲しい気分になる。
きっと努力してきただろうに、経済的な理由で断念しなければならなかったなんて、すごく悔しかっただろう。
だから、か。
だから彼は笑わなくなったのか……。
首切り屋という仕事をしているからだと思っていたけど、笑わない理由が別にある気がしてきた。
しばらく彼のリフティングを見ながら、そんなことをボーッと考えていた。
「うまかったよ」
私の家まで送ってくれた楠さんは、運転席の窓を開けて、ボソッとつぶやく。
「いえ。こんなんでよければ、いつでもどうぞ。
来週にします?」
「いや。しばらく忙しくなりそうだから」