冷たい上司の温め方

ひとり? ひとりなら、今までと変わらない。

彼は私に手渡した資料の表紙をめくった。

そこには……。


「楠さん、この人って……」


目を見開く私に、彼は小さく頷いた。
そこに書かれていた対象者の名前は……常務、だった。


「今から話すことは、まだ笹川しか知らない。決して漏らすな」


楠さんの言葉に大きく頷いた。


「林常務は、取引先の大手電機小売店からうちに五年前に来た人だ。
その当時は、赤字に転落していた会社を見事に復活させた立役者として評価され、うちが引き抜いた形なんだが……どうも裏で他社に情報を漏らしている節がある」

「そんな……」


会社の幹部の人間がそんなことをしたって、なんの得にもならないはずだ。


「最近、我が社の開発した新しい機能は、ことごとくある会社に先を越されている」


開発や営業に係わっていないと、自社の製品の特長もテレビCMで初めて知ることもある。

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