冷たい上司の温め方

「俺としては、林を退職に追い込むつもりだ。
刑事告訴も視野に入れている」


楠さんの強い言葉に息を呑む。


「だか、まだ証拠が足りない。
今の状態では、なんとでも言い訳ができる。
アクセスしただけでは、情報を漏らした証拠にはならない」


楠さんはメガネに触れた。
彼は重要な局面では必ずフレームに触れる。


「それで、常務に近づいて、情報を仕入れてもらいたい」

「私が、ですか?」


彼は大きく頷いた。


「男の俺や笹川では、心を許さないだろう。
一応女だからな、お前」


"一応"って、失礼な。


「林の経歴やその他使えそうな情報は、その資料に書かれている。
あいつは酒が好きでよく飲み歩いているんだが……」


それって、私に外で接触しろってこと?
林常務って、どんな人なの?

会社の上層部なんて、あまり関わりがないから、顔すら思い浮かばない。

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